◆◆原子とイオン◆◆
| イオンの生成 | イオン化エネルギー | 電子親和力 | 元素の周期表 | 元素の分類 |
【Section1】 イオンの生成
原子では正電荷を帯びた陽子の数と負電荷を帯びた電子の数が等しいため、原子全体としては電気的に中性
(電荷がない)です。
しかし、何らかの原因で、原子が電子を放出したり、受け取ったりすると、原子全体として電気を帯びた状態にな
ります。このような粒子をイオンといいます。
電気的に中性な原子が電子を失うと陽イオン(正電荷)になり、また電子を受け取ると陰イオン(負電荷)が生成しま
す。
イオン生成の際に授受した電子の数がイオンの価数に等しくなります。
(例)
電子を1つ放出 ⇒ 1価の陽イオン
電子を2つ受け取る ⇒ 2価の陰イオン
また、イオンには1つの原子だけからできた単原子イオンと、原子団全体として電荷をもつ多原子イオンがあります。
(例)
単原子イオン ⇒ H+, Cl-, Na+, O2-
多原子イオン ⇒ OH-, NH4+, CH3COO-,
希ガス原子は、閉殻およびオクテットで安定した電子配置を持つので、イオンになることは極めて困難です。
これに対して、ナトリウムNa原子では、K殻に2個,L殻に8個および最外殻のM殻に1個の電子が配置されています。
この最外殻電子は、他の内殻電子に比べて殻より遠くに存在しているので、核からの引力が相対的に弱く、原子か
ら離れやすい状態にあります。
この価電子1個が放出されると、その電子配置は希ガスのネオンと同じになって安定化できます。このため、
Na原子は1価の陽イオンであるNa+に変化しやすいのです。
Na [K:2, L:8, M:1] ⇒ Na+ [K:2, L:8] (←閉殻状態)
Ne [K:2, L:8]
また、塩素Cl原子は、K核に2個、L殻に8個および最外殻のM殻に7個の電子が配置されています。このM殻に、さ
らに1個の電子が入り込むと、その電子配置が希ガスのアルゴンArと同じになって安定化できます。このため、Cl原
子は1価の陰イオンであるCl-に変化しやすいのです。
Cl [K:2, L:8, M:7] ⇒ Cl- [K:2, L:8, M:8] (←閉殻状態)
Ar [K:2, L:8, M:8]
このように、原子には、原子番号が最も近い希ガスの原子と同じ電子配置をとって、安定化しようとする傾向が見
られるのです。そのため、原子は価電子を放出して陽イオンになったり、電子を取り入れて陰イオンに変化すると
考えられます。
ジャイロスコープはどのように働いていますか?
上記がイオン化するための条件となるので、原子には次のような傾向が生じます。
●一般に価電子の数が1,2,3個と少ない原子は、価電子を放出して陽イオンになりやすい
●一般に価電子の数が6,7個と多い原子の場合は、価電子を受け取って陰イオンになりやすい
(例) 1個の価電子をもつ Li, Na, K ⇒ Li+, Na+, K+
2個の価電子をもつ Mg, Ca, Zn ⇒ Mg2+, Ca2+, Zn2+
3個の価電子をもつ Al ⇒ Al3+
7個の価電子をもつ F, Cl, Br ⇒ F-, Cl-, Br-
6個の価電子をもつ O, S ⇒ O2-, S2-
●価電子の数が4,5個の原子は、陽イオン、陰イオンのいずれにもなりにくいです。
[補足] 炭素が電池や工業装置の電極に使われる理由
炭素原子では4個の価電子を持っています。
イオン化とは希ガスの電子配置(閉殻あるいはオクテット)になることなので、炭素原子の場合、イオン化するため
には次の条件が必要になってきます。
@4個の価電子を全部放出放出する(C4+) ⇒ ヘリウムの電子配置になる
A外部から4個の電子を4個取り入れる(C4-) ⇒ ネオンの電子配置になる
つまり炭素原子は4つの電子を"放出する"か"取り入れる"かということで、陽イオンあるいは陰イオンのどちらに
もなれる可能性があるのです。
しかし、いずれの場合にも莫大なエネルギーが必要となり、通常では炭素をイオンにするのは非常に困難です。
(例)
ナトリウムNa原子がNa+になるときに必要なエネルギー:496 KJ/mol
炭素C原子がC+になるときに必要なエネルギー:1086 KJ/mol
炭素C原子がC++になるときは…2353 KJ/mol
炭素C原子がC+++になるときは…4620 KJ/mol
また炭素原子は黒鉛状態のときは、金属のように電気を通す性質を持ちます。
したがって上記の「イオンになりにくい」こと、そして「電気を通す」性質を併せ持つ炭素は安価で耐久性のある電
極の素材として用いられるのです。
[補足2]イオン化すると原子半径が変化する!?
一般に、原子が陽イオンになると、もとの原子よりも小さくなり、原子が陰イオンになると、もとの原子よりも大きく
なります。
原子が陽イオンになる場合、最外殻電子が失われることになります(電子の放出)。これにより1つ内側の電子殻
が最外殻となってしまいます。 例えばナトリウム原子だと、
Na [K:2, L:8, M:1](最外殻はM殻) ⇒ Na+ [K:2, L:8](最外殻はL殻)
というように、イオン化すると最外殻はM殻からL殻になり原子の半径は小さくなってしまうのです。
また、同一元素からなる陽イオンの場合だと、価数が大きいほどイオン半径は小さくなります。
(例) Fe++: 0.74Å Fe+++: 0.64Å , Cu+: 0.77Å Cu++: 0.73Å
一方、原子が陰イオンになる場合は、最外殻そのものに変わりはありません。例えば塩素原子だと、
Cl [K:2, L:8, M:7](最外殻はM殻) ⇒ Cl- [K:2, L:8, M:8](最外殻はM殻)
チタンは自然界に見られる場所
となります。
しかし、新たに電子が入り込むことによって、もとから入っていた電子との間に反発力が働いて、電子殻が膨張
するため、陰イオンはもとの原子よりも大きくなるのです。
また、すべて同一の電子配置をもつイオンの場合、原子番号が大きくなるほどイオン半径は小さくなります。これ
は電子配置が同じでも、原子核中の正電荷が原子番号順に増加するため、電子がより強く原子核に引きつけられ
るからです(下表)。
イオン | 原子番号 | 電子配置 | イオン半径(Å) |
酸素イオン(O2-) | 8 | [K:2, L:8] | 1.26 |
フッ素イオン(F-) | 9 | 1.19 | |
ナトリウムイオン(Na+) | 11 | 1.16 | |
マグネシウムイオン(Mg2+) | 12 | 0.86 | |
アルミニウムイオン(Al3+) | 13 | 0.68 |
【Section2】イオン化エネルギー
原子を陽イオンにする場合、原子核からの引力に逆らって電子を無限遠まで引き離すためのエネルギーを外部
から加える必要があります。この力をイオン化エネルギーと呼びます。イオン化エネルギーは次のように分類され
ています。
●中性の原子から電子1個を取り去って、1価の陽イオンにするのに必要な最小エネルギーを第1イオン化エネルギー
●中性の原子から電子2個を取り去って、2価の陽イオンにするのに必要な最小エネルギーを第2イオン化エネルギー
以下同様に第3、第4…第nイオン化エネルギーが定義されています。また単にイオン化エネルギーといえば、"第
1イオン化エネルギー"のことをさしています。
(例) Na + 496 kJ → Na+ (496 kJが第1イオン化エネルギー)
Na+ + 4562 KJ → Na++ (4562 KJが第2イオン化エネルギー)
このようにイオン化エネルギーは、原子がもつ電子の出にくさを表す指標になります。すなわち、イオン化エネルギ
ーの小さい原子ほど、陽イオンになりやすいのです。
逆はもちろんのこと、イオン化エネルギーの大きい原子ほど、陽イオンになりにくいことを示します。
イオン化エネルギーが小さい → 陽イオンになりやすい → 陽性が強い
[参考資料]
原子の第1イオン化エネルギーを原子番号順に表すと、下図のようになり、最外殻電子が原子核に強く引きつけ
られている原子ほど大きくなります。
周期別に見てみると(第1周期:H,He,第2周期:Li〜Ne,第3周期:K,Ca)、イオン化エネルギーは、原子番号が大きく
なるにつれて増加する傾向を示します。
これは、原子核の正電荷が順次大きくなると、最外殻電子が原子核に強く引きつけられるためです。そして、
He,Ne,Arなどの希ガス原子(図の○)のイオン化エネルギーは極大値をとっています。これは、希ガス原子の電子配
置が特に安定していて、電子を取り去るのに強い抵抗があることを示しています。逆にLi,Na,K原子(図の○)では、
希ガス原子よりも電子が1つ多い状態になるので、電子殻も1つ外側になります。電子に対する原子核からの引力
は外側の電子殻に移るほど減少するので、イオン化エネルギーは極小値をとることになるのです。
【Section3】電子親和力
中性の原子が電子を取り入れて陰イオンになるとき、電子配置が希ガス元素になるので安定化し、余分に持って
いたエネルギーが放出されることがあります。このエネルギーを電子親和力といいます。
電子親和力は、原子の陰性の強さ(陰イオンのなりやすさ)を比較するのに用いられ、電子親和力の大きい原子
ほど、陰イオンになりやすくなります。*電子親和力を捉えにくいときは「電子をどれだけ欲しているかの強さ」と解釈してくれてもいいです。
特に、F, Cl, Brなどの原子は電子配置が希ガス元素と1電子分の差しかないために、非常に電子を受け入れやす
くなっています。そのため、安定化したときのエネルギーは非常に大きく、これらの原子が極大値を取ることになり
ます。
電子親和力が大きい →陰イオンになりやすい → 陰性が強い
【Section4】元素の周期表
元素を原子番号順に並べると、元素の化学的性質はしだいに変化し、性質のよく似た元素が周期的に現れます
。この規則性を元素の周期律といいます。
周期性を示す元素の性質としては、次のようなものがあります。
●単体の融点
●原子のイオン化エネルギー
●原子の電子親和力
●原子の半径
…などです。
このような周期律が成り立つのは、何故なのでしょうか?その答えは、「元素が、原子番号の増加に伴い、価電
子数が規則的に変化するから」です(下図)。
価電子の数が同じということは、原子の表面の状態がよく似ていることを示します。化学変化とは、原子同士
が衝突してその組み合わせが変化することなので、原子の表面の状態がよく似た原子では、よく似た化学的性質
(反応性)を示すことが理解できます。
赤い円は原子の大きさを表しています。また、原子に添えている数値は各原子の融点(℃)です。
元素を原子番号順に並べ、性質のよく似た元素が同じ列に並ぶように配列した表を元素の周期表といいます。い
わゆるみなさんがよく目にする図ですね。 周期表はつぎのようなルールになっています。
●周期表の横の列を周期とよぶ
●周期表の縦の列を族とよぶ
それぞれの特徴としては
(周期)
第1〜7周期まである
第1周期には2種類の元素
第2、第3周期には8種類の元素
第4周期以降には18種類あるいはそれ以上の元素が含まれる
第7周期は未完成の周期
(族)
1族〜18族まである
同じ族に属する元素群を同属元素という
同族元素は価電子数が等しく、互いに化学的性質が似ている
同族元素のうち、固有の名称で呼ばれるものがある。たとえば、Hを除く1族元素をアルカリ金属、Be,Mgを除く2族
元素をアルカリ土類金属、17族元素をハロゲン、18族元素を希ガスという
[補足]アルカリ金属、アルカリ土類金属、ハロゲン、希ガスの特徴
●アルカリ金属は強い陽性の元素で、1価の陽イオンになりやすい。その単体は反応性に富む軽金属です。
●アルカリ土類金属も陽性の元素で、2価の陽イオンになりやすい。その単体はアルカリ金属に次いで反応性に富
みます。
●ハロゲンは強い陰性の元素で、1価の陰イオンになりやすく、単体は反応性に富みます。
●希ガスは、融点・沸点が非常に低く、常温でいずれも気体です。電子配置が安定なために(閉殻やオクテット)、化
合物やイオンになることはありません。
【Section5】元素の分類
周期表は元素の性質や価電子の状態から次のように分類することができます。
(1)典型元素
周期表の両側にある1族、2族および12族から18族までの元素を典型元素といいます。典型元素では、周期表の
左から右に向かって価電子数が1つずつ増え、その化学的性質も規則的に変化します。
典型元素の原子の価電子数は、18族(希ガス)が0個のほかは、族番号の下1桁の数字と一致します。
(2)遷移元素
第4周期以降に現れる3族から11族までの元素群を遷移元素といいます。遷移元素では、典型元素に見られる周
期性はあまりはっきりしておらず、族としての類似性の他に同一周期で隣り合う元素どうしでもよく似た性質を示し
ます。これは、遷移元素の価電子がいずれも1,2個であり、化学的性質があまり変化しないためです。
また、遷移元素では、最外殻電子だけでなく、内殻電子の一部も価電子として働くことがあるので、いろいろな価
数をもつイオンが生成することがあり、その化合物やイオンには、特有の色を示すものが多いです。
(3)金属元素
銅や銀のように単体が金属光沢を示し、電気や熱をよく導くといった、いわゆる金属の性質を示す元素を金属元
素といいます。その原子は、価電子を放出して陽イオンになりやすいです
(4)非金属元素
金属元素以外の元素を非金属元素といいます。非金属元素はすべて典型元素で、希ガス元素を除くと陰イオン
になりやすいものが多くあります。
(5)両性元素
周期表において、13族から16族にある金属元素と非金属元素の境界区分にある約10種類の金属元素は、酸・ア
ルカリのいずれとも反応するので両性元素と呼ばれています。
その代表として、Al, Zn, Sn, Pbの4元素を覚えておいてください。
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