スズメの個体数および減少についての疑問
「スズメの個体数および減少について」のよくある質問への回答
2008年、日本本土(北海道本島、本州、四国本島、九州本島、沖縄本島)における成鳥の個体数は、およそ1800万と推定されています。この 中にはヒナや若鳥の数は含まれていませんので、秋にはこの数値の数倍になると思われます。そして秋から冬にかけて個体数を減少させていくのでしょう。
ただしこの推定値を出す際には、いくつかの仮定を置いています。そのため1800万羽という比較的細かな数字ではなく、数千万羽と考えるのが妥当と思われます。
用いた仮定などについては、以下のリンク先の論文に詳しく掲載してありますのでそちらをご覧ください(どなたでも閲覧可能です)。
日本にスズメは何羽いるのか?
一口にスズメの個体数を調べるといっても、どのように調べるかは難しい問題です。当然のことながら日本中のスズメを1羽1羽数えるわけにはいきません。結局のところ「ある一部の場所でスズメの個体数密度を測定し、それを面積の分だけ掛け算する」しかありません。
まず基本となる密度の測定ですが、試行錯誤の結果、動き回っているスズメを数えるよりも、道を歩きながらスズメの巣を数えた方が安定した精度で調べることができることがわかりました。とはいえ、町中を歩いて調査をしても巣そのものを発見することはそれほど多くありません。しかしヒナの声や親鳥が餌運びをしている行動など手掛かりにして、「この屋根のどこかに巣がある」とか、「この家の裏庭のどこかに巣がある」というところまでは絞り込めます。今回の調査目的のためには厳密な場所まで特定する必要はなく「この辺りにある」ということで十分ですので、こうしてスズメの巣の密度を調べました。「個体数密度ではなく巣の密度でいいのか?」という疑問をお持ちのかたもいらっしゃると思いますが、それは 先を読んで下されば、その方法の問題点とともに納得していただけるかと思います。
調査は、秋田、埼玉、熊本の3県で行いました。この3県にした理由は気温や気候の偏りによってスズメの生息密度が異なることが考えられましたので、北から南までバランスよく含むようにしたためです。調査した環境は、商用地、住宅地、農村、森林、その他という5つの環境です。なお、この5つの環境のうち、森林にもスズメが生息しているとお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、例外はあるにせよ、スズメは人が近くにいるところでしか巣を作りませんので、森林にはいないのです。ですから、ここで森林を調べているのは「確かにいないこと」を示すためなのです。
このようにして環境ごとのスズメの巣密度がわかりました。次はそれぞれの環境が日本本土にどれくらい(面積)あるのかを知る必要があります。ちかごろは便利になったもので、日本のどこにどんな環境がどれくらいの面積あるのかを、インターネット上にあるデータから調べることができます。そのデータとは国交省が提供している土地利用に基づく情報で、約1km四方単位で「農地がどれくらいあるか」、「森林がどれくらいあるか」などが数値化されています。
こうして分かったそれぞれの環境の面積に、先に野外で調べた巣密度をかけあわせることで、日本のスズメの巣の数が推定できます。その結果、およそ900万巣と出ました。スズメは多くの場合、一夫一妻で繁殖すると考えられていますので、これを2倍した「1800万羽」が繁殖期の成鳥の数となります。
推定時に多くの誤差を含んだ値として慎重に取り扱う必要があります。
誤差を生み出す要因としては、調査時における巣の見落とし、繁殖していない個体(巣をつくっていない個体)の数え落とし、などが考えられます。これらは、スズメの個体数を過小評価することにつながります。さらに、地理情報データからどこを商用地としてどこを住宅地とするかを判定する際にも、大雑把な処理を行っていますので、誤差のもとになっています。このように荒っぽい解析をしている部分もありますから、真のスズメの個体数が(今のところ調べようがありませんが)、1800万という値の数倍の範囲内にあっても私は驚きません。ただ、推定値よりも10倍も多いまたは10倍も少ないということはないでしょう。というのも、地理情報データを処理するときにありえない判定をしても、推定値は2倍程度の値に収まるか� ��です。それにもしスズメの個体数が推定値の10倍もいて人口と同じくらいであれば、1世帯につき1つ程度のスズメの巣があることになりますが、スズメの巣はそんなにたくさんはありません(だいたい4、5世帯に1つです)。逆にスズメの個体数が推定した値の10分の1だったら、数十世帯に1つ程度しかスズメの巣はないはずですが、スズメはもっとたくさんいます。
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以上のことを考え合わせると、おそらく繁殖期のスズメ成鳥個体の数は数千万羽の桁には収まると思います。この推定が出る前に「スズメは何羽いるの」と聞かれても、誰もどう答えてよいかわからなかったと思います。数百万なのか、数千万なのか、数億なのか、数十億なのか。しかし今回の推定で「およそ数千万」という桁がわかっただけで意味があったのではないかと思います。
いくつかのデータから、スズメの個体数がどれくらい減少しているか推定してみました。すると減少率を低く見積もったしても、現在は1990年当時の50%程度の個体数しかいないと推測されます。一方、減少率を高く見積もると、その値は20%程度、つまりこの20年たらずで1/5になった計算になります。
詳しい内容については「日本におけるスズメの個体数減少の実態」というタイトルで日本鳥学会誌に掲載されています。
なお、スズメの「個体数を推定した研究」と「個体数の減少を推定した研究」は全くの別のやり方をしていますので、ご注意ください。
過去にスズメの個体数を調べた研究はありません(もしあれば、私が推定した個体数とくらべて減少率を推定することができます)。そこで、おもに次のようなデータを用いました。「1.いくつかの地域で行われていたスズメの個体数変化の調査データ」、「2.スズメによる農業被害の経年推移データ」および、「3.駆除狩猟されたスズメの個体数の経年変化データ」。
1については場所が限られていますし対象地域だけの傾向という可能性はありますが、それでも明らかにスズメの個体数が減少していることがみて取れました。
2,3については全国的に行われた大規模な調査ですので、より信頼性が高いと思います。これらのデータが「単純にスズメの個体数の減少を反映したものである」と仮定すると、現在のスズメの個体数は1990年ごろと比べて15%程度に減少したことになります。
しかし農業被害の減少の中には、減反によって水田面積が減ったので被害も減ったという効果も含まれているかもしれません。また駆除および狩猟されたスズメの個体数の減少にも、狩猟者が減ったという効果が含まれているかもしれません。そこでそれらの効果を考慮してみました。すると現在のスズメの個体数は当時の20%程度と推定されました。これが「20年足らずのうちに個体数が20%になった」という根拠です。
上記のように推定はしましたが、まだ考えられていない効果があります。農業被害の減少については「スズメが田畑に近づかないようにするための防鳥技術が発達した」、「稲を日干しすることがなくなったのでそのときに食べられる量が減った」などが考えられます。駆除狩猟された個体数の減少についても「スズメの需要が減ったので捕獲する必要がなくなった」、「個体数が減ったので捕獲効率が下がった」などが考えられます。これらがどれくらいの効果をもっているかは、今もっているデータからではわかりません。しかし他のこまごまとしたデータと比較検討すると、これらの効果があったとしてもやはりスズメの個体数は減少しており、当時の半分程度にはなっていると推測されました。これが「20年足らずのうちにス� �メの個体数は50%になった」という根拠です。
1990年以前のデータはあまり多くないのではっきりしたことは言えません。ただし1960年ごろのスズメの駆除・捕獲個体数は現在の30倍、農業被害に至っては現在の60倍もあったという試算もあります。それを考えると半世紀で1/10、ひょっとしたらもっと少なくなっているかもしれません。
ひとつの推定値に過ぎません。
とはいえ、いたずらにスズメの数が減少していることを煽ろうと思ったわけではなく、既存のデータをなるべく慎重に検討しています(むしろ私は実際に自分で減少率を推定するまで、スズメの減少については眉唾ものだと思っていました)。ですから現在わかる範囲ではそこそこ信頼できる値と思われます。しかし情報が不足していることも事実です。今後「こういったデータもある」、「こういったデータも推定に使える」となることで、より高い精度で減少率がわかってくると思います。
はっきりとしたことはわかりません。
一般に、なぜ減ったのかという原因を特定するのは難しい作業です。それに比べれば「スズメの個体数は何羽か」、「スズメは減ったのか」などは調べればわかるものですから容易な問題といえます。そのため以下に述べる減少要因はあくまで推測に基づくものです。
減少する要因としてスズメの生活史から次のようなことが考えられます。「1.巣を作る場所がない」、「2.子育てがうまくいかない」、「3.巣立った子供が秋まで生存できない」、「4.巣立った子供が冬を越せない」
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現在はスズメにとってどの時期も厳しい時代になっているように思えます。まず1の巣を作る場所についてですが、最近は気密性の高い住居が多くなってスズメが巣をつくる場所が減ったように思えます。2の子育てがうまくいかないことについては、近年、街中からスズメが餌をとるような環境、具体的には舗装されていない小道・公園および空き地が減少したことが影響していると考えられます。「でもスズメは街路樹などでも餌をとっているから大丈夫なのでは」と考える方もいらっしゃるでしょう。しかしそのような街路樹で餌を採れる効率はあまり高くないと思われます。実際、街中では農村などの餌が多いところと比べて、1つがいの親あたりの若鳥の数が少ないようです(詳細については、こちらの論文をご覧ください)。3 については、カラスが巣立った直後のスズメのヒナを襲うことがよく観察されていますので、その影響が考えられます(ただし過去と比べて多くなったかどうかはわかりません)。4についてはコンバインを使うことで落穂が減ったため、スズメが冬にかけて栄養を十分に保持できないなどが考えられます。
私としては1と2の組み合わせがもっとも効いているのではないかと考えています。というのも、スズメは餌を取りに行く範囲が狭い鳥です。せいぜい巣から半径100mほどです。そのためスズメがうまく繁殖するためには、巣を作れるような隙間と餌を効率よくとれる環境(緑地など)がセットになっている必要があるのですが、その組み合わせが日本の都市から減っているのではないかと思います。
スズメは全国的には減少傾向にあると思われます。しかし全国どこでも一様に減っているかどうかはわかりません。あまり減っていないところもあるかもしれませんし、かえって増えているところもあるかもしれません。もし本当に増えているところがあれば、そこにスズメの減少要因を解明する鍵があるかもしれません。
加えて最近では駅前などにスズメの集団塒(ねぐら)が見られることがありますので、それを見て「スズメはたくさんいる」という印象をお持ちの方もいるかもしれません。しかしこのような塒は昔からあり、さまざまな文献から判断するに昔はもっと大規模で数もたくさんあったように思われます。スズメの塒は、昔は竹やぶやヨシ原、休耕田などにあり、万羽単位のものもあったそうです。スズメが塒に入る様子を「スズメ合戦」と呼び見世物にしていたところもあったくらいです。近頃はそのような塒となる環境が減っています。そのため都市の中心部でスズメの塒を目にする機会が増えて、たくさんいるような印象を与えているのではないかと思います。
おそらくそうだろうと思われます。これは以下の調査の結果から考えられることです。
スズメは巣立ったあと、10日ほどは親のそばに留まって、餌をもらったり何が危険かを教えてもらったりして過ごします。NPO法人バードリサーチを通じて、この時期に親鳥が連れている子スズメの数を、全国規模で調べてもらいました(詳しくは子雀ウォッチのサイトをご覧ください)。巣立ち直後でなくて良いのかという意見はあるかもしれません。もちろん、それがわかるのが理想です。しかし、それを知るためには、事前に巣の位置を把握して、巣立つ瞬間を待ち構えて観察しなければなりません。そんな調査を全国規模で行うのは現実的ではありません。ですからこの調査で分かることは「巣立ちをしてしばらく経ったあとの巣立ちヒナ数が何羽か」ということです。1つ1つのデータは、巣立ち直後から10日ほど経ったものまで� ��ると思います。当然、その間にもヒナは捕食者に食べられて死んでいくことでしょう。しかし、データ数が十分にあれば、そういったある一定の期間の間をランダムに観察したということで、解析に耐えられるようになります。
この調査の結果、商業地では1.41羽、住宅地では1.79羽、農村地では2.03羽となりました。この結果から言えることは、都市部、とくに商業地では、ほかの環境に比べて繁殖成績が悪いということです。なぜ成績がわるいかはまだわかりません。営巣場所が悪かったり、餌が少なかったりすることが考えられます。それについては今後の調査で明らかにする予定です。
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次にこのヒナ数が過去と比べてどうなのかを知りたいのですが、残念ながら、過去に同様の調査をやったことがないので、すぐには比較できません。ただ、いくつか文献をひっぱってくると、2から3羽のヒナをみることが普通だったり、5羽くらいのヒナを連れているのもそう珍しくはないという話が出て来ます。今回、約350データのうち5羽のヒナをつれた親鳥は1例だけでした。私自身、5羽のヒナを連れたスズメはみたことがありません。つまり今ではそれくらい珍しいことになってしまったということです。そういったことを考え合わせると、過去と比べても繁殖成績は悪くなっていると思われます。
なお、繁殖成績の悪さが、繁殖ステージのどの段階によるのかはまだわかりません。産卵数が少ない、孵化率が低い、巣立ちまでの生存率が低い、巣立ったあと観測されるまでの生存率が低い、などいろいろ考えられます。これについても今後の調査で明らかにする予定です。
この結果から考えられることがもうひとつあります。それは都市部ではスズメは増えられないのではないかということです。
詳しい計算過程は省略しますが、スズメが個体群を維持するためには、この調査している時期に(つまり巣立ち後ちょっとたった時期に)、親鳥が2羽ちょっとのヒナを連れていることが必要です(これは、2羽のペアから2羽が巣立てばいいという単純な計算ではありません。繁殖回数と寿命を考慮してシミュレーションしたものです)。計算のもととなっている生存率や寿命の値はそれほど信頼できるものではありませんので目安にすぎませんが、それでも商業地の1.41羽という値はどう考えても小さすぎるので。この値でから考えると、商業地ではスズメは増えることができません。となると商業地のスズメは、農村地など多少過剰に増えたところから流入して維持されているか、それともこのまま減少していくかのどちらかが考えら れます。
この結果に対して、「1回に産む子供の数を減らして繁殖回数を増やしているのでは」とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それはちょっと考え難いと思います。というのも、スズメは1回の繁殖をおこなうのに、最短でも40日程度はかかります。内訳を大雑把に書くと、産卵に5日(5卵産むとして)、抱卵に12日、育数に14日、巣立ち後のケアに10日。この中には巣作りの期間などは含まれていませんので、実際には1回の繁殖に50日以上かかるとみた方がいいでしょう。加えて、1回目の繁殖が終わったあとは疲弊していますから、すぐに次の繁殖にはとりかかれません。次の繁殖に入るまでに1月ほどかかるという話もあります。仮に育てる子を減らして疲弊を抑えてその期間を短縮したとしても、3回繁殖をおこなうため� ��は、どんなにうまくやっても150日かかります。実際にスズメが繁殖を始めるのは、関東であれば4月の初旬で、終わりは7月末くらいです。この期間であれば2回繁殖しかできません。確かに3月の中旬ごろから始める個体もいますし、8月をすぎても(場合によっては11月という報告もありますが)繁殖していることはあります。しかしそれは稀な例です。3回繁殖する個体がいるのは否定しません。が、ほとんどのスズメは2回繁殖していると考えるのが現実的です。しかもすべての個体が2回ちゃんと子を育てさせられるとは思いません。さまざまな理由により繁殖に失敗することが考えられます。となると、平均繁殖回数は1.5回〜2回くらいと推測されます。
「いや、同じ巣から、1年のうちに連続して5回ヒナが巣立ったのをみた」というような話を聞きますが、おそらくそれらは同じペアではありません。上述の数字を使うと産卵から巣立ちまでは、最短でも30日ほどです。連続しているように見えるのは、巣立った直後、巣の持ち主がまだヒナの面倒をみている段階で、別のペアが巣を使っているためだと思われます。実際スズメの巣を観察していると、ちょくちょくその巣のペアではないと思われる個体がやってきて、巣の中を覗いていく行動がみられます。この行動の本当のところはわかりませんが、おそらくは巣を持てないペアが、営巣場所を探しているのだと思います。つまり巣立ったらすぐに繁殖をする機会をうかがっているペアがいるわけです(それだけ営巣場所が足りていな いということでしょう)。それにより、連続○回というような繁殖が見掛け上みられると思われます。
上述した推定減少率が正しいとして、そしてその減少率が今後も続くと仮定してもすぐには絶滅しません。
なぜなら数千万羽もいるのですから。しかしこのスピードで減少していくと、スズメは街中の鳥ではなく「農村にほそぼそと暮らしている鳥」になる可能性があります。こう聞くとちょっと大げさなように思えるかもしれませんが現在ヨーロッパの一部の地域では、日本のスズメと同じような環境に生息するイエスズメという鳥が街中から消えてしまっています。だからといって日本のスズメにも同じことが起きるかどうかはわかりません。しかし近年の都市という環境はスズメタイプの鳥類にとっては住み難くい環境になっているのかもしれません。
その答えを私は持ち合わせていません。
まずスズメの個体数が減少したことが本当にそんなに問題なのかを考える必要があります。今のところ生態系や人に特に悪い影響が出ているわけではないように思えます(顕在化していないだけかもしれませんが)。そもそもスズメの個体数減少はデータがあるからわかったに過ぎず、おそらくほかの多くの鳥類も減少傾向にあります。ひょっとしたらスズメよりもはるかに早いスピードでその個体数を減少させている種もいるかもしれません。そのような中でスズメの個体数の減少について調査するにはお金も人も必要となりますが、本当にスズメに対して優先的に研究を行うべきかどうかなのは難しい問題です。それよりももっと絶滅の可能性が高い種に対して、お金も労力も注ぎ込むべきかもしれません。
しかしながら、もし身の回りからスズメがいなくなったら文化的な意味での損失が大きいように思えます。というのもスズメは俳句や昔話にも登場する鳥です。「すずめの涙」「すずめ色」というような言葉もあります。スズメが身近な生きものでなくなってしまったらこれらが何か実感できなくなってしまいます。もっと近年のことを例に考えてみると、テレビやラジオの中でスズメの「チュンチュン」という声は、市井や町中などの場所また朝が来たことを示す効果音として用いられています。つまりスズメの姿や声は我々の日常の光景であり音であるのです。しかし、もし次世代にスズメが身の回りから消えてしまえば、次世代の人たちにはこれらが何のことかわからなくなってしまいます。
スズメが減ったときにどういうことになるかを実感して頂くために次のようなことを考えてみます。私の家は最寄駅まで歩いて15分ほどです。毎朝通勤のために駅まで歩いていきます。その間にだいたい5つがいのスズメの巣があります。繁殖期にはスズメが電線で鳴いている姿や道端に降りて餌を食べている姿をみながら通勤するわけです。もし今の減少率がそのまま続くとすると、20年後にはこの5つがいが1つがいか2つがいになることでしょう。そして40年後には全くスズメを見かけなくなってしまうでしょう。もちろん、そのようになっても町の中をよく探せばどこかにいるかもしれませんし、田舎に行けばまだそれなりに姿が見られるかもしれません。しかしながら(あくまで今の減少率が続けばという仮定のもとの話ですが)ス ズメはそういう鳥、つまり身近ではない鳥になってしまうかもしれないということです。今から数十年後に「昔は、スズメという鳥が街中にいてねえ・・・」なんていう会話が出るようでは少々寂しいと私は考えます。
ただしスズメに限りませんが、ある生物を保全する上で(しかもそれが必要だという前提の話ですが)「寂しいから・・・」という根拠はとても曖昧です。もしその理屈で通せば次のようなことも言えてしまいます。「マングース(沖縄と奄美に持ち込まれ昔からいたさまざまな生きものに悪い影響を与えています)を駆除するのは可愛そうだから、駆除するのを止そう」と。私と同じように「スズメがいなくなったら寂しい」とお考えの方はいらっしゃると思います。そう感じることはとても大事なことですし、その思いがなくては生物多様性の保全という考えは生まれてきません。しかしマングースの例でもそうですが「その理屈だけで進む」わけにも行きません。
このように「どうすべきか?」と質問されても、今のところ私には明確に答えられません。ただ研究者に限らないと思いますが、どの道の専門家であっても、みな自分の思い入れのあるものが廃れかけているのを「どうにかしたい」と思うはずです。たとえば日本語学者は国語教育にお金をかけるべきだと声高にいうはずですし、古典芸能に携わっている人は、その文化的な保護を主張するでしょう。その意味で私は「スズメの個体数は減少しているのでその減少要因を解明すべきだ」と強く主張すべきなのかもしれません。
最終更新:2011.10.26(PDFにリンク)
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